茂木健一郎 クオリア日記: あすへの話題 恋人との出会いとノーベル賞
serendipity 面白い単語と発想
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あすへの話題 恋人との出会いとノーベル賞
あすへの話題 恋人との出会いとノーベル賞
「セレンディピティ」(偶然幸運に出会う能力)という言葉が、最近注目されている。
もともとは、イギリスの作家ホラス・ウォルポールが1754年に友人への手紙の中で記した造語である。三人の王子が旅先で幸運に出会う物語に基づいて考案されたこの言葉が、時を経て広く使われるようになった。
歴史に残るような科学的発見には、多くの場合偶然の幸運が関与している。イタリアのガルヴァニの電気による筋肉の収縮現象の発見は、カエルの足に偶然金属が触れたことがきっかけだった。実験をしようとしていたのではない。台所でスープを作ろうとしていたのである。
小柴昌俊氏のノーベル賞の対象となった研究は、超新星爆発で放出されたニュートリノが、カミオカンデの実験装置を通過したことがきっかけとなった。宇宙的規模のセレンディピティが、画期的業績を生んだのである。
偶然の出来事自体は、コントロールすることはできない。しかし、偶然の出会いを生かすよう心がけることはできる。セレンディピティは、鍛えることのできる能力なのである。
まずは、行動を起こすことが肝心である。待っているだけでは幸運は訪れない。また、注目すべき出来事が起こったとき、それに気付き、受容することが大切である。特定の目的に目を奪われて心の余裕がないと、セレンディピティが育まれない。
行動し、気付き、受容する。まるで素敵な恋人との出会いのようである。実際、セレンディピティに着目すると、「恋人との出会い」と「ノーベル賞級の発見」には、多くの共通点があることが見えてくる。(日本経済新聞2005年11月10日夕刊掲載)